董卓による破壊的インフレ

 董卓が五銖銭を改鋳して小銭を作り、これが粗悪な通貨だったことから、高インフレを招いたことは数多く言及されている。だが董卓が鋳潰したのは五銖銭だけではない。
 『三国志』魏書董二袁劉伝では「悉椎破銅人、鐘虡,及壞五銖錢。更鑄為小錢」といい、銅人・鐘虡・五銖銭を破壊して、小銭を発行したことがみえる。銅人とは始皇帝の鋳造した十二金人のことで、以前に
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で言及したことがある。董卓はその十二体のうち十体を破壊している。鐘虡とは編鐘を吊るす棚のことだが、ここでは編鐘そのものとみたほうがいいだろう。
 『晋書』食貨志には「悉壞五銖錢,更鑄小錢,盡收長安及洛陽銅人飛廉之屬,以充鼓鑄」とある。長安および洛陽の銅人・飛廉というから、始皇帝の鋳造した銅人のみではなく、他の銅像も破壊していたとみるべきだろう。飛廉は別名に蜚廉ともいう神獣で、ここではその神獣の銅像を指している。董卓は五銖銭のみならず文化財をも破壊して銅を調達し、小銭を発行していたのである。
 小銭発行による影響を見てみよう。『三国志』魏書董二袁劉伝によると、「于是貨輕而物貴,穀一斛至數十萬。自是後錢貨不行」といい、穀物一斛(一石)が数十万銭に達し、銭貨が通用しなくなるというハイパーインフレに陥ったらしい。『晋書』食貨志では、董卓の死後に李傕と郭汜が長安で紛争していた頃に「是時穀一斛五十萬,豆麥二十萬,人相食啖,白骨盈積,殘骸餘肉,臭穢道路」という惨状を記録している。また同志では「及獻帝初平中,董卓乃更鑄小錢,由是貨輕而物貴,穀一斛至錢數百萬」ともいい、一桁高い数字も見えている。