黄文雄氏の歴史観

元は、遼、金、西夏諸王朝同様、「反漢族国家」だ。強烈な反漢意識に貫かれ、民族文字・文化を国策として強烈に突出させた国家である。
黄文雄中華帝国の興亡』(PHP研究所)

黄文雄氏の歴史観の問題点のうち、前近代なところでは、たぶんこのへんに問題が集約されてると思う。当時のモンゴルも契丹女真もタングートも、総体としてみればそんなに「強烈な反漢意識」なんて持ってない。そもそもそんな強固な民族の団結なんてなく、「ゆるやかな連合」(c.杉山正明)があるだけだ。「農地を更地にして放牧しましょうぜ」みたいな発言をする個人はいても、けっきょくそういう無理解な発言は王朝に取り上げられることがない。そもそも「強烈な反漢意識」を持っているのなら、モンゴル(メルキト)のトクトが『宋史』『遼史』『金史』を漢語で編纂した理由を説明してほしいものだ。
黄文雄氏の「民族国家」歴史観は、けっきょく近代以降の漢族中心の考えを裏返しにして、前近代に投影しているだけにみえる。