Nスペ「中国文明の謎」第3集感想

2日放送のNHKスペシャル「中国文明の謎 第3集 始皇帝 "中華"帝国への野望」を録画で視聴しました。純真な人にはオススメできない凄い内容でしたね。
Twitterでの盛り上がりについて、Togetterでまとめられています。
http://togetter.com/li/416872
▼平勢隆郎御大の発言がネットでは注目されていたのですが、今回は予想外なことに鶴間和幸先生まで毒気に当てられてしまわれたようで…。
平勢隆郎御大は中国古代の編年や正統観について、きわめて特異な説を唱えておられる研究者です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B3%E5%8B%A2%E9%9A%86%E9%83%8E
http://unkar.org/r/whis/1123502212
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062740524/
鶴間和幸先生は中国古代研究者で、とくに秦代については日本で第一人者といってもいいかたです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B6%B4%E9%96%93%E5%92%8C%E5%B9%B8
工藤元男先生もちらっと出てましたね。
http://www.amazon.co.jp/dp/449721110X
▼彩色兵馬俑が黒・白・黄・青・赤の五色を使っていたという話。五行説ですね。しかし2006-2007年の彩色兵馬俑展の図録P23-24をみると、「陶俑の表面に残存する主な彩色顔料は、紅(朱砂、鉛丹)緑(石緑:孔雀石で作った緑色の顔料)、藍(石青:藍銅鉱で作った藍色の顔料)、紫(紫色の銅バリウムケイ酸)、黄(バナジウム鉛鉱)、黒(カーボンブラック)、白(燐灰石、鉛白)など多くは天然鉱物を材料とするものである」と書かれていて、五行説に当てはまらない緑や紫の顔料も使われていたらしいのですがね。
▼秦の宮殿群の配置が北極星を中心とした星座の配置を模しているという説については、
http://www.geocities.jp/wtbdh192/html/fusig01.htm
の説明が分かりやすいと思います。
「極廟」は『史記』秦始皇本紀の始皇二十七年の条に「焉作信宮渭南,已更命信宮為極廟,象天極」とはあるものの、「信宮を渭南に作らせ、信宮を極廟と名を改めさせて、天の北極をかたどらせた」というところから、あそこまで拡大解釈していいものなのか、大いに疑問です。
鶴間先生こんな説を主張していたんですね。しらんかった。
http://www.d-laboweb.jp/event/report/121011.html
咸陽宮がペガスス座(営室)とか、何が根拠なんでしょうね。
▼封泥が出土した宮殿名とか
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTotal-SXGY201102019.htm
が読めればいいのに。
▼秦亭村は、甘粛省清水県にある村で、秦の非子の馬牧場という伝説があるらしいですね。「鳥語花香的秦非子牧馬場」ってところらしいです。近くに甘粛省礼県の大堡子山遺跡があって、ここは初期の秦の陵墓で、車馬坑が出てます。
甘粛省張家川自治県の馬家塬遺跡は西戎文化の影響を受けた戦国時代の遺跡みたいです。
http://www.tianshui.com.cn/news/zjc/2012092722243716090.htm
▼秦は西戎の一派説が有力ですが、東夷説もあるにはあるんですがね。
▼侯馬盟書は1965年に山西省侯馬市の東郊で出土した石片・玉片群で、その多くは毛筆で朱書あるいは墨書されていました。筆記されていた内容は、春秋時代後期の晋の趙氏の内紛にかかわる盟約書です。番組では諸侯の盟約であるかのように紹介されていましたが、あれは誤解のもとでしょう。
▼雲夢秦簡は1975年に湖北省雲夢県で発見された竹簡群で、睡虎地秦簡ともいわれて知られています。
番組で紹介された黒夫と驚がその家族にあてた手紙は、睡虎地4号墓から出土した木簡です。黒夫と驚が参加した淮陽の戦いとは、紀元前224年に秦の王翦が楚を攻めたときのものとも、紀元前278年に秦の白起が楚に侵攻したときのものともいわれています。
▼魏の恵成王が夏王を称したというあたりも、平勢説全開でしたね。『戦国策』秦策四の「魏伐邯鄲,因退為逢澤之遇,乘夏車,稱夏王」から来てます。うん、魏は夏正なのです(笑)。
▼夏子は雲夢秦簡「法律答問」から来てますが、これを強調するのも平勢御大ならではでしょう。平勢隆郎『都市国家から中華へ』P342に出てきますね。
孫文とか毛沢東とか中華民族とかは、わりとどーでも良かったですね。第2集の感想で、「中華民族多元一体論」と茶化したのは、番組テーマ的には間違っていなかったかなと。