The Bride of the Castle Skull

田中芳樹『髑髏城の花嫁』(東京創元社
『月蝕島の魔物』につづくヴィクトリアン・ホラー・アドベンチャーの2作目。題名はゴチックでそれらしいが、相変わらずちっとも怖くないので安心して軽く読める。ヴァリャーグ(東欧ヴァイキング)と第四次十字軍とクリミア戦争スコットランドヤードが19世紀ロンドンで煮られるとこういう物語になったという、良く言えば贅沢、悪く言えば詰め込みすぎな話。田中作品お約束の狂言回しは、今回マイケル・ラッドとヘンリエッタ・ドーソンがつとめるが、特にヘンリエッタの登場が遅すぎで、パンチが足りない感じになったのがやや残念。
敵役のライオネル・クレアモント・フェアファクスは、『創竜伝』のランバート・クラークと印象がかぶる。しかしフェアファクスと言うと実在の人物でキャメロン男爵の9代目がいたりするんだけどいいのかなあ…(もちろん全然別人だけど)。
物語中で実在した人物は、主なところでウィッチャー警部、ナイチンゲール女史、ディケンズサッカレーといったところだが、時代の雰囲気を出すために「背景」として適度に散りばめられていて、そのあたりの手並みはたいしたものだ。
最後つけたりに、語り手のジョセフもといエドモンド・ニーダム君は蘊蓄がうるさくて毒にも薬にもならない人物だが、作者の副音声なのでこれはしかたがない。主人公のメープル・コンウェイ嬢はできすぎた人物だが、作者の理想の投影なのでこれもまたしかたがない。
蛇に足だが、作者はこの作品では一貫して城に「カースル」とルビをつけている。荘園屋敷最寄りの駅がニューカッスルであることと、整合していないかもしれないが、これもまたしかたのないことなのだ。

髑髏城の花嫁 (Victorian Horror Adventures 2)

髑髏城の花嫁 (Victorian Horror Adventures 2)