李巌実在論が盛り返しているらしい

李巌(李信)は、明末の農民叛乱の頃の人物。紅娘子の旦那と言ったほうがピンと来る人が多いかもしれない。河南省杞県の人で、郷試に及第して挙人となる。ときに明末の飢饉で窮民の救恤のために自家の食糧を放出し、県令に憎まれて獄に下された。紅娘子が県令を殺して李巌を救出。李自成に帰順してその参謀となり、「闖王(李自成)を迎えれば、税金を取らないぞ」の歌を作った。1644年に牛金星の讒言に遭い、李自成に殺されている。
李巌は『明史』流賊伝や『綏寇紀略』『明季北略』といった複数の史書に登場するため、ふつう実在するんだろと思うところ。
ところが顧誠『李巌質疑』『再談李巌問題』や欒星『李巌之謎』といった20世紀の実証史学によって、紅娘子が殺したとされる杞県県令って殺されていないよとか、明末の挙人に李信(李巌)なんて存在しないよとか、李巌物語の細部が否定されてしまい、挙げ句のはてには李巌とは李自成から派生した分身キャラだったんだよ、「な、なんだってー」という説まで出る始末。
李巌物語は小説だったのだ、残念というところ。

さてときは21世紀になって、
http://www.historychina.net/wszl/xlxh/2006-01-12/29322.shtml

河南省懐慶府河内県唐村(現・河南省焦作市博愛県唐村)で康熙五十五年(1716年)に編纂された『李氏家譜』に李巌らしき人物がいたのだ。李信、字は巌。妻は陳氏と孔氏。貢生。万暦三十四年(1606年)生まれの崇禎十七年(1644年)没。無極拳の創始者の李春茂の四男。崇禎十三年(1640年)に堂弟の牟に誘われて李自成の陣営に入り、十七年に冤罪のために殺される。

細部に異同があるものの、李巌の基本的な伝記とかぶる部分がある。弟とされていた李牟が堂弟(いとこ)として登場するのもポイント。父親は李精白じゃなくて李春茂だけど。やっぱり李巌って実在したんじゃないの?という議論に向かっている模様。

中国の大盗賊・完全版 (講談社現代新書)

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叛旗 小説李自成〈上〉 (徳間文庫)

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黄土の旗幟のもと (潮漫画文庫)

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李巌と李自成 (講談社文庫)

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