森福都『楽昌珠』

森福都『楽昌珠』(講談社
陶淵明の桃花源記を思わせるオープニングで、時代は武周の末年から盛唐の開元初年にかけてのお話ですね。3話連作。作者森福女史の得意技マジックアイテムを核心に据えたトリック小説が炸裂しております。「楽昌珠」「復字布」「雲門簾」という3話の表題のとおりのアイテムが出てきます。
今回は宮廷陰謀劇という趣きが強いので、要所要所は史上人物がしっかり締めています。武則天玄宗は言わずもがな、張易之兄弟や太平公主、王皇后や武恵妃の立ち位置はおおむね史実を押さえていますね。高力士は歴史上でもよく分からない怪人物ですが、小説でもなかなかいい味を出しています。桃林の三人や葛孝友・裴逢吉・陳元達あたりは架空人物ですね。王守敬などは、は?何でこんな時代に王陽明が…と思ったりしないでもなかったのですが。七娘が注目していたわりに活躍はしなかったですね。
国史ものは読んでいると僕はツッコミを始めてしまうので、凌遅の刑は唐代にはないでしょとか、科挙のイメージが少し後代のものなんじゃないかとか、あ〜こういうこと言い出すと批評として点数が辛いように感じられるので止めときます。いや、純粋にお話として面白かったですよ。
ラストについては、世上の評判は悪いようですが、まあこういうのもありかなと。主人公3人は桃林の世界が現実で、宮廷の世界が夢だ、もしくはその逆だと考えているけど、その境目は曖昧で、どちらが現実どちらが夢と峻別できる話ではないよ…と言っているのだと解釈しましたが、あるいは全く的外れなのかもしれません。