口で賊を打つ
『陔餘叢考』巻四十
『五代史』にいう*1。後唐の諸将がおのおの自らの功績を論じたとき、李嗣源はひとり論じなかった。ある人がこのことを尋ねたところ、李嗣源は「諸君は口をもって賊を撃つのを好まれるようだ。嗣源はただ手をもって賊を撃つだけである」*2といった。調べると、この発言にはもととなる話がある。『晋書』にいう*3。西陽夷がそむいたとき、太守の楊珉が賊をはばむために属僚と会議を開いた。朱伺はひとり無言であった。楊珉がこのことを尋ねたところ、朱伺は「諸人は舌をもって賊を撃つが、伺はただ力をもってするだけである」といった。『唐書』虢王巨伝*4にいう。安禄山がそむくと、張垍は虢王李巨に謀略があるとして推薦した。召されて京師にいたったが、楊国忠はかれを嫌って「ここに来る人の多くは口をもって賊を打つ。君もそうではないかね」といった。李巨は「誰かあなたのために手ずから賊を打つ者がありましょうか」といった。欧陽修の史書*5もおそらくこれ*6をもとにしているのであろう。
追記:コメント欄の殷景仁さまの指摘につき、訳稿修正。(2007年9月2日)