The Devils of the Eclipsed Island

田中芳樹『月蝕島の魔物』(理論社
久々の田中芳樹。ヴィクトリアン・ホラー・アドベンチャーとしてシリーズ化するつもりらしい。怪奇ではあっても、恐怖小説的要素はまるでないので、軽く読める。こういうのを書くと、田中芳樹は本当にソツがない。
イギリスを舞台にした小説としては、『カルパチア綺想曲』、『創竜伝』10巻に次ぐ。スコットランドが出てくるとなると、『マヴァール年代記』2巻の文庫版あとがき以来かもしれない(笑)。
お話はカルパチアよりいくらか古い19世紀半ば。田中氏はこの前後の時代の英国を贔屓にしていることは作品でもよく分かる。僕もホームズ物語はそれなりに好きだが、この情熱には到底かなわない。歴史ウンチクもなかなか噛みごたえがあり、スペイン無敵艦隊の逃避行の話なんかやはりさすがと思わせる。田中ファンには耳タコのディズレーリグラッドストンの挿話や阿片戦争をめぐる田中節も健在。ある意味では予想通りな作品。
田中氏の作品は、ちょっと困った人物を書かせると実に絶品なのだが、ええとおい…アンデルセンってそういう人物だったのかよ。アンデルセンがちょっと好きになったよ。