「逃毀」

Wallersteinさんが「逃毀」にこだわっているらしいので、日本史にも鎌倉にも知見を持たない中国屋でありますが、なにやらむにゃむにゃと。

「逃毀」は漢籍では用例が一件見つかるだけなんですよね。ほかにあるのかもしれないですけど、検索能力低いのでとりあえずこれだけです。なにせ『漢語大詞典』にも出てこない単語ですので、困る。

宋書』巻七十三 列伝第三十三 顔延之

流言謗議,有道所不免,況在闕薄,難用算防。接應之方,言必出己。或信不素積,嫌間所襲,或性不和物,尤怨所聚,有一于此,何處逃毀。苟能反悔在我,而無責於人,必有達鑒,昭其情遠,識迹其事。日省吾躬,月料吾志,寛默以居,潔靜以期,神道必在,何恤人言。

宋書』顔延之伝の一節ですが、これは顔延之(384-456)の『庭誥』の一部です。南朝宋の元嘉三年(西暦426年)、…なんかいろいろありまして、顔延之が侍中を兼職するように言われて、「邑吏送札」つまりは官吏が任命書を送ってきたんですが、顔延之は酔っぱらって「札」を地に投げ捨て、「顏延之未能事生,焉能事死!」(顔延之はまだ生きて仕えることができないのに、どうして死して仕えることができようか!)とか捨て台詞を吐いて、強引に隠居して、そんで作った文章が『庭誥』です。その一部が上に引用したところです。

専門外(というか趣味的興味の範囲外)ですし、全体として何言ってるんだか分かんない文章ですが、とりあえず「何處逃毀」のところだけこだわると、「何れの處か逃げ毀たん」(いずれのところかにげこぼたん)って読めそうですね。「どこに逃げこぼてるというんだ」みたいな反語っぽいです。「毀」は「こぼつ」。壊すとか、穴を空けるとか、そういう意味の漢字ですが、ここではなんか被害を与えてるっぽいニュアンスを感じ取れます。おそらく「逃げ(て被害を与え)る」くらいの意味でしょう。

「何らかの『資財』なり『妻子』なりをいわば担保として逃散する」ってお上品な解釈はここでは考えにくいですね……。と言っても日本史での解釈は別になるのかもしれませんけど。

ちなみに「去留」は、漢籍での用例も結構あり、言及すると面倒なことになりそうなので、逃げます。ではでは〜。