「要は、勇気がないんでしょ?」で始まる恵施

ちょっと昔の話。今よりも僕はずっとずっと言い訳をするのが好きで、理屈を説明するのが好きだったんです。
でまぁ、当時も今と変わらず理屈屋で、
友人の荘周と遊んでいたのです。
濠梁のほとりで。

したらまた、この荘周が「儵魚が出てきて自由に泳ぎ回ってやがる。これは魚の楽しみだな」と言い出したんです。
ウロコのついた生き物の嫌いな僕は焦りました。「いや、ちょっと待って」とあわてます。
でも荘周は、少し遠くで泳いでいる2匹の儵魚を指さし、「あそこ行って見てみようぜ」と言い、近づいていきます。
僕は「いや、君は魚じゃないし」とか「さすがに魚の楽しみは分からないっしょ」とか言って止めます。
荘周は「見るぐらい見ればいいんだよ」と言ってましたが、僕が動こうとしないので行くのをやめました。

「君はオレじゃないのに、どうしてオレが魚の楽しみは分からないなんて言うんだい?」と荘周は言います。
「僕は君じゃないから、もちろん君のことは分からない」と僕は顔をしかめます。
「分からないんだろ? だったらオレが魚の楽しみは分かってるか分からないだろ」と荘周は口調を強めます。
「そうだけど、君は魚じゃないんだから、普通」と僕。
「なに、普通って?」
「僕が君のことを分からないのと同じで、君も魚のことを分からないとか、そういう…」とハッキリ言えない自分。
「じゃあ、そもそも君がオレに魚の楽しみは分からないなんて言うのも、それもオレのことを分かっているからだよな」という荘周。
「それは…、だけど、ほら、お前もこの前言ってたじゃん。鵞鳥の夢がどうとか夢に鵞鳥が荘周でとか」
「は?」
「その…」
「…鵞鳥の夢じゃねぇよ。胡蝶の夢だよ」
「あ、そうだったね。…でも僕、魚、少し苦手だし。そこまでして魚が見たいってわけでもないし…」

荘周は僕の顔をじっと見つめながら、一言、
「だせぇ」
と言いました。
ごちゃごちゃ言ってるけど、勇気がないだけじゃん
彼は言います。
言い訳をして、さも「こういう事情なんだ、だからしょうがないんだ」って言うけれど、
勇気がない自分を必死になって正当化してるだけじゃん、と。
目の前の魚を見る勇気もないやつが、世界のことが分かってるように言うんじゃない。

どうせ行ったこともないのに「今日、南の越の国に旅立って、昨日到着する。…」って言うし、
見たこともないのに「厚みを持たないものは積み上げることはできない」とか言うだろうし、
デタラメに弓を射てそれで弓の名人かって言えば「いや、それでいい」って何かにつけて言い訳するんだろ?
だったら「自分には目の前の魚を見る勇気がないんです」って素直に認めて文句言うんじゃねぇよ。
そっちの方が、よっぽど何かってときに力になりたいってと思うし、
つーか、やらない理由並べて、今の自分を否定させずに、わかってもらおうとするその魂胆がだせぇ、と。

あれは恥ずかしかったなー。すげぇ。恥ずかしかった。
その場は言い訳もできず笑ってごまかしたけど、家に帰ったら彼の顔とセリフが思い浮かんで、
布団の中で「でもさ、でもさ」と必死に言い訳考えてた。
僕には僕の事情があるんだ、しょうがねぇじゃんかよって。詩の「君子于役」とか口ずさみながら(笑)

ひとしきり考えたら、そんな自分を「だせぇ」って思った。

3番煎じくらいのネタに乗っかってみました。ちなみに恵施がウロコのついた生き物の嫌いだったかどうかは証拠はありません。

ネタ元:
要は、勇気がないんでしょ?(Attribute=51)
「要は、勇気がないんでしょ?」で始まる太平洋戦争(ARTIFACT@ハテナ系
「要は、勇気がないんでしょ?」で始まる天下三分の計(増田)