うるわしじまゆめものがたり

安彦良和麗島夢譚』(徳間書店
安彦版国性爺合戦の1巻が出ました。作者は初代ガンダムの絵の人ですが、この人は歴史ものを描かせたら実に題材が渋いです。これまでもギリシア神話だの満州建国大学だの古事記だのアレクサンドロスだの秩父事件だのを描いてきた人です。今回もきっと歴史の隙間を縫うようなニッチなものに違いないと思うわけですが、案の定なのであります。
ときは寛永十五年(西暦1638年)、島原の乱幕府軍により鎮圧され、天草四郎が首実検にかけられるところから物語ははじまります。
主人公は松浦隆信庶子・伊織。倭寇よろしく海賊稼業の青年です。伊織は松浦党の船を率いてオランダ船を襲撃するわけですが、船倉で見つけたのは鎖に繋がれたスカした金髪青年と四郎を名乗るキリシタンの少年で、成り行きで助けてしまうのでした。以後はトラブル続きで、別のオランダ船に襲撃され、伊織の船は沈没し、ゼーランディア城に連行されて拷問されるわ。新免武蔵守を名乗るおっさんは登場するわ。麗しのフォルモサ(台湾)を舞台に大暴れです。
正体不明のスカした金髪青年は、なぜか忍者で、三浦按針の息子だし。天草四郎は人の話を聞かないし。とにかくもう無茶苦茶。安彦さんは歴史物を書いても、決して歴史を俯瞰するようなところに視点を置かないですね。名前だけ登場した鄭芝龍松平伊豆守。まだ影もかたちも見えない鄭成功はどこで出てくるのか。これからの展開が楽しみです。

……さて荒唐無稽な物語なので、以下は蛇足なのですが。1巻P101でゼーランディア城の長官がピーター・ヌィイツと名乗りますが、1638年ということはヨハン・ヴァン・デル・ベルクの間違いじゃないかという気もします。