甘藷

 「甘藷」といえば、さつまいものことで、新大陸原産の農作物のひとつである。中国では16世紀末に栽培がはじまったらしい。
 ところが賈思勰『斉民要術』巻第十に「南方草物狀曰甘藷二月種至十月乃成卵大如鵝卵小者如鴨卵掘食蒸食其味甘甜經久得風乃淡泊異物志曰甘藷似芋亦有巨魁剝去皮肌肉正白如脂肪南人專食以當米糓」と「甘藷」の語が見えるのである。さつまいも伝来の1000年以上も前、南北朝時代東魏のころに記録された「甘藷」がさつまいもを指しているわけがない。この「甘藷」は大きなものは鵝卵のよう、小さなものは鴨卵のようであり、蒸して食べられ、その味は甘く後味が長いという。皮を剥くと肌肉は真っ白で脂肪のようであり、南方の人が主食としているという。
 結論をいうと、この「甘藷」はクーガ芋、トゲドコロなどと呼ばれるヤム芋の一種らしい。1000年ほどのあいだ「甘藷」といえばこの芋を指していたのだが、フィリピン経由で中国へとさつまいもが伝来すると、その語の意味するところは簒奪されてしまったのだった。