「向」の読みについて

またぞろ『キングダム』をタネに話を広げてみます。
宮女キャラに「向」というのがおりますね。「こう」と読まれているのは、ご存じのとおりです。

漢和辞典を引けば分かりますが、「向」の読みは、呉音が「コウ」で、漢音が「キョウ」です。
中国の人名の読みは基本的に漢音を取りますので、これは「きょう」と読むべきでしょう。
たとえば前漢末に「劉向」という人物がいるのですが、これは「りゅうきょう」と読みます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%89%E5%90%91

さて、少し不思議なことがありまして、三国の蜀漢に「向寵」という人物がいます。この人はなぜか「しょうちょう」と読みます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%91%E5%AF%B5
康煕字典』の「向」の項は、『廣韻』『集韻』『韻會』『正韻』を引いて、「式亮切,音餉」という音を紹介しています。「式」(ショク)と「亮」(リョウ)の反切、つまるところ「ショウ」と読む場合があるのです。また胡三省の『資治通鑑注』は「向,式亮翻,姓也」と言っています。どうやら姓の場合は「ショウ」と読むらしいのです。
北宋の向太后なども、「しょうたいこう」と読んでますね。
https://kotobank.jp/word/%E5%90%91%E5%A4%AA%E5%90%8E-79490
ちなみに地名や国名(周代の諸侯にあったらしい)の「向」も、「ショウ」と読みます。「向潭鉄路」は「しょうたんてつろ」と読むのです。

「向かう」系が「コウ/キョウ」、固有名詞が「ショウ」と、分けられればいいのですが、そうスッパリともいかないあたり、漢字の音は難しいなあと、つくづく思う次第です。