まぼろしの「覇」王朝

久しぶりにレコードチャイナが歴史記事でかっ飛ばしてくれたので、取りあげておこうと思います。記者の勘違いが大炸裂です。

レコードチャイナ:古代王朝「覇」の存在を証明!?大河口墓地で発掘の青銅器銘文に「覇」の文字を確認―山西省太原市
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=64327

31日、中国・山西省太原市の山西博物院で「山西省考古研究所60周年特別展」が開催され、同省翼城県の大河口墓地で発見された青銅器のひとつが初公開されたが、この青銅器はこれまでに確認されていなかった新たな古代国家「覇」の存在を示している。

2012年8月31日、中国・山西省太原市の山西博物院で「山西省考古研究所60周年特別展」が開催され、同省翼城県の大河口墓地で発見された青銅器のひとつが初公開されたが、この青銅器はこれまでに確認されていなかった新たな古代国家の存在を示している。チャイナフォトプレスの報道。

2007年、盗掘されたことをきっかけに発見された大河口墓地は、4万5000平米に1000もの墳墓が林立する。これまでに1万5000平米にわたる600の墳墓で発掘作業が行われた。ここで発見された青銅器の銘文から「覇」の文字が確認されたことから、新たな古代王朝の存在が浮上。その後の考証で、この「覇」国は、燕(BC1100〜BC256年)、周(BC1046〜BC222年)、晋(265〜420年)などの王朝と交流のあったことが判明した。ただし、これまでに伝えられている文献からは、「覇」国に関する記載は発見されていない。

大河口墓地は「2010年度全国10大考古新発見」に選出されており、西周(BC1100〜BC771年)時代の研究にとって重要な発見とされている。(翻訳・編集/愛玉)

中国語が読めなくても、高校世界史レベルの知識があれば、まずこの記事おかしいと気づかれると思います。「西周(BC1100〜BC771年)時代の研究にとって重要な発見」と書いているにもかかわらず、明らかに時代の異なる「晋(265〜420年)」が紛れこんでいます。()内はレコードチャイナ記者が勝手に補足したものであり、元報道での「晋」はもちろん西周から春秋時代にかけての諸侯国である晋です。仮にそこを訂正したとしても、燕・周・晋を「などの王朝」と括ること自体おかしいことです。燕と晋は周の諸侯であって対等の「王朝」ではないのですから。

山西省翼城県出土の大河口西周墓地から出土した青銅器に「霸」(覇国)の存在を示唆する銘文があったことは、事実として報道されているところです。その国の君主は「霸伯」と呼ばれていたようです。ただし「霸」はレコードチャイナ記事の言うような「王朝」ではありません。その君主の称に「伯」がついていることからも知れますが、伯爵をもつ周の諸侯のひとつにすぎません。出土の青銅器銘文には「燕侯旨作姑妹宝尊彝」とあるなど、諸侯間の通交の跡はうかがえるようです。ただ諸侯としても燕・晋などよりかなり格下であるのは間違いありません。伝世の史書に見えない件ですが、周の八百諸侯については現在の時点で分かってないことがたくさんあります。現在知られている周の諸侯は四百を越えないと言われており、考古的発掘によりあらたな金文が見出されて知られざる諸侯名が発見される可能性は、これからも存分にあります。

ということで、「王朝」が発見されたのではないことは残念ですが、分かってないことだらけの西周が近年の考古的発見によって実像が浮かび上がってきているのは、ワクワクすることであり、今回の発見はわりと大きなピースのひとつだと思うのですよ。

http://www.sx.chinanews.com/news/2012/0829/68504.html
http://tech.china.com/science/lishi/11025917/20111013/16810087.html
http://baike.baidu.com/view/5663282.htm