蒙恬の先祖

『史記』蒙恬列伝に「蒙恬はその先祖が斉の人である。恬の祖父の蒙驁が斉からやってきて、秦の昭王に仕え、官は上卿にのぼった」というが、蒙驁自身やその祖先が斉でなにをやっていたのかはさっぱり分からない。『戦国策』秦策三に「蒙傲」なる人物が登場するが、これも秦に入って以後の范雎と蒙驁の小話にすぎない。さて、以下を読む人は眉に唾をつけながら読んでほしい。
『論語』季氏篇において、魯の季孫氏が顓臾を討とうとしたとき、孔子が「顓臾はむかし先王が東蒙の主としたもので、邦域の中にあって社稷の臣であるのに、どうして攻撃するのだ」と発言する場面がある。「顓臾」は小国の名である。「先王が東蒙の主とした」というのは、蒙山の祭祀を周王が任せたことを指す。蒙山は現在の山東省臨沂市の北西に位置し、蒙陰・費・沂南・平邑の四県にまたがっている山のこと。蒙驁・蒙武・蒙恬の祖先は、周代の封建小諸侯のひとつで、山東の蒙山の祭祀をつかさどっていた一族だったという可能性がある。春秋戦国時代の諸侯兼併の時勢のなかで、いつかどこかで斉国に組み込まれたのかもしれない。

『春秋左氏伝』僖公二十一年に、顓臾が風姓であることを述べている。風姓は伏犠や女媧の姓であり、燧人氏の姓でもある。中国の古姓のひとつであり、蒙氏の姓であるかもしれない。

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